ここで、水メジャーとは何か、具体的に説明しましょう。
水事業には、利水・造水(海水淡水化など)、浄水、配水・給水、下排水処理など水循環プロセスに応じて多数のビジネス領域が存在します。施設保有、事業運営・維持管理、メンテナンスなどの対顧客サービス分野と多岐にわたる中で、これら水に関わる複数のビジネス領域を垂直統合的に扱うのが「水メジャー」と呼ばれる企業です。
現在、世界の水ビジネス市場には、2つの巨大な水メジャーが存在します。フランスのヴェオリア・エンバイロメント、GDFスエズです。
ヴェオリア・エンバイロメントは、150年もの歴史を持つ水メジャーの最大手。2番手のGDFスエズもフランスの企業です。その他力を有するものに、オーストラリアのケンブルウォーターの傘下にあるイギリス発のテムズ・ウォーターなどがあります。また、最近ではM&Aを駆使して参入するアメリカのGEや、国を挙げて事業参入を目指すシンガポールのハイフラックスなど、後発企業も勢力を伸ばしています。
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なぜ、これら欧州系企業が垂直型事業運営に強いのか。それは、早くに官から民への事業委託が行われてきた歴史があるからです。フランスでは、150年以上も前、なんとナポレオンの時代から公益事業を民間企業に委託する制度が一般化しており、事業運営のノウハウが長期にわたって民間に蓄積されてきました。イギリスでは、1980年代の深刻な財政危機により、サッチャー政権が1989年に民営化に踏み切り、それまで10か所あった流通管理局は一挙に民営化されました。また、アメリカでは、老朽化が進むインフラの改善に莫大な費用がかかることから民間企業のノウハウを導入し始め、現在では国内の飲料用水の15%が民間企業によって供給されています。
ここで再び、冒頭の話に戻りましょう。なぜ、我々が水メジャーを目指すのか。
それは、日本の官が持つ世界最高レベルの水技術と解決すべき深刻な水問題が、同時に存在しているからです。
日本の水道普及率は2008年時で97.5%、漏水率、すなわち水漏れによって失われる水の割合はわずか2〜3%と、世界最高水準に達しています。この高い水道技術は、これまで地方自治体によって管理運営されてきました。しかし、今、官のノウハウと現場の技術力でまかなってきたこの体制が深刻な課題に直面しています。
のような日本の人々は彼らのお金を何に費やしていない
日本の水道事業は、1960年〜70年代に集中的に整備が行われましたが、この時代を支えた職員の多くはまもなく定年を迎え、高度な技術と経験を積んだ人材が大量に退職します。人材の高齢化と並んで大きな問題として立ちはだかるのが、施設の更新問題。同時期に建てられた全国の水道施設は、老朽化が進み更新の必要性に迫られていますが、地方財政のひっ迫によりなかなか更新できていないのが現状です。
日本の水事業は、取水から排水まで様々な法律が関わります。そのため、上水道は厚生労働省、工業用水は経済産業省、下水道は国土交通省と様々な省庁が管轄しています。そしてこれらの運営は、総務省所管の公営企業の枠組みで地方自治体が行っています。またさらに、水源である河川や湖沼は国土交通省、農業用水は農林水産省、排水に関する規制は環境省と、実に多くの省庁が関与しています。
この体制は高度経済成長期の急速なインフラ整備には大きな威力を発揮しましたが、水事業全般を統括する主体が見えにくいという難点があり、水問題の総合的な解決に向けて対応するには却って制約があるように見受けられます。
しかし、国もただ手をこまねいているわけではありません。2002年に改正水道法が施行、水道事業の運営維持管理をアウトソーシングすることが認められ、民間活用を推進する第一歩が踏み出されました。また、2003年には浄水場を含む「公」の施設の管理を民間に委託可能にするために、地方自治法が改正されました。
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我々はそれより以前にマニラ等で水ビジネスを展開してきました。大規模事業運営における実績、巨額の事業資金の調達力、豊富な国内外のネットワーク。三菱商事の持つこれらの力を活用し、今こそ、卓越した官の技術を世界に広める。そのために、国内では2000年に、水道事業会社ジャパンウォーターを設立しました。
今後は、世界で水をマネジメントする力が求められる。ひとつは、急激な経済成長を迎える新興国の台頭により、上下水道や産業用水の整備が必要となるためです。そしてふたつ目の大きな理由に、地球の環境問題があります。今、地球は温暖化による乾燥化や集中豪雨など、問題が蓄積しています。これらは、水の問題とイコールです。急激な環境変化に耐えられるように、水全体をマネジメントする力が今後は不可欠になってきます。
水は、我々生物の命を支える必要不可欠な存在です。世界で使用される水は、農業のために引かれた灌漑用水が約7割、工業用水が約2割、生活用水が約1割と、飲用としてはもちろん、各産業においても大量に必要となるものです。水は、現代では、まさに命の、社会の、そしてビジネスの最重要インフラなのです。
しかし、今、我々すべての人が恩恵を受けられるほど十分な水資源があるか。決して楽観視できない状況があります。
現在、地球上に存在する水の量は、およそ14億km3と言われていますが、そのうち容易に利用できる水資源は0.01%とごくわずか。さらに、このわずかな水さえも、人口の増加や産業の発展、温暖化による降水パターンの変化などにより、枯渇や汚染の危機にさらされているのです。
67億人を突破した世界人口は、2050年には91億人に達すると見込まれています。人口増加に加え、経済発展による生活スタイルの変化などで、世界全体での水の使用量は、2025年には2000年に比べて3割も増加すると予想されています。
現在、日本を含む先進国のほとんどの国ではほぼすべての人が良質な水にアクセスできますが、世界全体では実に約8.8億人が飲むための水すら確保できていないという実情があります。さらに、急速なスピードで経済発展するアジア・中東諸国では、水の供給が間に合わず、深刻な水不足に陥る可能性が考えられるでしょう。
世界の水ビジネスの市場規模は、2005年の60兆円から2025年には111兆円に達する見込みと、20年で2倍の急速なスピードで成長しています。この巨大なマーケットに対し、現在、欧米や中南米を中心に民間企業が次々と水事業に参画していますが、背景には、市場規模の大きさだけではなく、民の資金調達力、経営感覚の採用が急務である、という事情があります。
水は、人々の生活に欠かせないインフラという側面から、各国の政府によって事業運営が行われるパターンがほとんどでした。全員に公平に行きわたり、しかも安全かつ安価でなくてはならない。それを叶えるためには、特定の私企業でなく、官が担う方が適当だと考えられてきたのです。
しかし、安全な水を確実に行きわたらせるには最先端の技術やノウハウが必要になります。これらの開発には当然巨額の費用がかかりますし、人材や施設、開発・運営費のマネジメント技術も必要になる。実は本来、もっとも高度なマネジメントが必要な分野だったのです。
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